君が憧れるところの透明人間になった僕は、忘れた右手の感触をガラス窓の中に求めた。
偶然君の心臓に触れた感触と、目の前で溶けた星の残り香。空を舞うそれは酷く歪に見えた。
昨晩落下した太陽が水溜りを蒸発させた時に、5メートル先で同じように蒸発した老婆の焰。
隙間を縫うようにして、羽を畳んだ忠義が地を這い、雄猫は自らの皮を剥ぎ、日銭を稼いだ。
ただ忘れた姿のように。
君に滴る明日のように。
同じ姿の僕らのように。
流れて行くように。
肩を這いずる愛。
空を切った指が水滴となって、僕の中を焦がしながらゆっくりと下る。
君は僕の背を裂いて、そこからそれを覗きこんで、笑いながら燃え尽きて行った。
焼け残ったのは、爛れたフィルムと、僕がついぞ手放せなかった花の種と、街灯の根元を支えていた金具。
干上がった川の底には穴が空いていて。
僕らが歩んだ時間の冷たさを。
正当化する為に。毎朝僕が死ぬ度に。
君の残滓は僕に降る。
意味のない言葉で。焦げ付いた声で。
ひび割れた両手で。渡した痛みで。
示された嘘で。溶け落ちた瞳で。
消え失せた光で。君は僕に降った。
意味のない言葉で分かち合うだけで。
示された嘘で。溶け落ちた瞳で。
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